フランス革命の死刑執行人3

国王の処刑とナポレオン

パリにプロシア軍が攻めてくる、という情報が人々の耳に入ります。革命軍の徹底破壊を宣言していたため、恐怖が噂を生み、政治犯が反逆するのではと不安になった市民たちが、市内9つの監獄を襲撃しました。群衆は囚人たちを人民裁判にかけ、次々と虐殺します。
九月虐殺事件と呼ばれ、それを契機に革命は血なまぐさい状況へ進んでいきます。
そして国民軍がプロシアに勝利し、世界初の普通選挙による国会が開かれ、王政は廃止されました。

王党派が駆逐された国会は革命派ばかりでした。ジャコバン派であるロビスピエールは国王は犯罪者であると主張し、裁判にかけられたルイ十六世は有罪――死刑の判決が下ったのです。賛成と反対の票差はわずか1票でした。
いくら立憲君主だとはいえ、台頭する革命派を国王は恐れており、ヴァレンヌへ逃亡未遂したことで国民からの信頼は失墜していました。

その国王を処刑するのは、もちろんシャルル=アンリ・サンソンでした。
シャルル=アンリは忠実な王党派だったこともあり、最後の最後まで国王が救出されることを願っていました。
実際、死刑執行日の前日、サンソン家には救出作戦の計画をもちかける若者がいたほどです。しかし影武者は難しく、あきらめるしかありませんでした。
国王を救出するさい、抵抗をしないように、という警告の手紙や、処刑前、救出をするからと、協力を要請する手紙もありました。


処刑当日、執行の直前までシャルル=アンリはその場から逃亡したいほど、苦悩します。
国王を手にかけていいのか、革命は行き過ぎたのではないか、国を新しくするためになぜ、王政を廃止する必要があるのか……。
だからといって、自分が逃げてしまえば職務放棄をしたことになる。処刑の仕事を失った一族は路頭に迷ってしまうだろう。

処刑台に上った国王は群衆に語りかけます。「今、まさにあなた方のために死のうとしている。私の血があなた方を幸福にしますように。私に罪はない」と。
そしてギロチンにかけられ、斬首されるのですが、国王が救出されることはありませんでした。実行したグループがあったのですが、人数が少なすぎて、取り押さえられてしまったのです。

国王を処刑してしまったシャルル=アンリは、それから生涯、苦悩します。革命派に宣誓しなかった僧侶を見つけ、ミサを挙げてもらい、なんとか心の平穏を保とうとしました。
革命は宗教をも否定し、宣誓しなかった僧侶は虐殺や処刑されたため、隠れ家を見つけるのも命がけでした。


それから革命はさらに勢いを増し、国王が処刑されたあとは凄まじい数の犯罪者が処刑されました。
そのなかにルイ十五世の寵妃だったデュ・バリー夫人がいます。彼女はお針子から成り上がった夫人で、若い時分、シャルル=アンリと恋人関係にありました。田舎に隠れ住んでいたデュ・バリー夫人でしたが、宝石が盗まれたと騒ぎを起こしたことで、逮捕されてしまいます。
スパイ嫌疑をかけられ、シャルル=アンリに処刑される直前、かなり抵抗して命乞いをしたことで、悲惨な処刑になりました。

みな、デュ・バリー夫人のように、もっと抵抗して泣き叫べば、死刑は廃止になったかもしれないのに、とシャルル=アンリは語っていたといいます。

ジャコバン派の恐怖政治時代、サンソンは二千数百人もの人々を処刑します。テルミドールのクーデター後、ジャコバン派が逮捕され、百名ほど処刑されたことで、ようやく革命は落ち着きを取りもどしました。

剣による斬首とちがい、ギロチンは一日に何十人もの首を斬ることが可能です。それがかえって、人道どころか、処刑のスピードを早めただけに終わりました。

その翌年、シャルル=アンリは息子のアンリ・サンソンに「ムッシュ・ド・パリ」の職務を譲り、引退します。余生は、国王を処刑したことを懺悔し、ミサをたびたび挙げたといいます。


ナポレオン政権下、サンソン家の人々は死刑執行人をしていました。
1806年のある日、偶然、年老いたシャルル=アンリはナポレオンと対面したのですが、かの皇帝はサンソンの名を耳にしたさい、一瞬、怯えたといいます。
ルイ十六世を処刑した男だと知り、恐怖を覚えたのでした。

熱心な死刑廃止論者のシャルル=アンリ・サンソンでしたが、生涯、その願いは叶うことはありませんでした。
フランスで死刑が廃止されたのは、1981年です。
サンソン家は六代目が最後になり、現在、末裔は存在してません。

※参考書籍

死刑執行人サンソン――国王ルイ十六世の首を刎ねた男 (集英社新書)


余談
漫画イノサンに登場するマリー=ジョゼフについて。

検索して来られる方がいらっしゃると予想し、少しだけ補足。
参考文献にはマリー=ジョゼフなる名前は一切、登場していません。姉妹にはまったく触れられておらず、漫画を読むまでは私も存在を知りませんでした。

もし本当に処刑人をしていたら、必ず本書に書いてあるはずなので、架空の設定だと思われます。(女処刑人なんてインパクトありすぎますし……)
あと、従者が「アンドレ」だったり、本書にはないあれやこれやのドラマがあったりで、かなり脚色されています。ベルばら風とフランス革命をミックスした物語なのでしょう。

マリー=ジョゼフそのものは実在したようです。ウィキペディアにシャルル=アンリの妹とありました。


イノサン 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
↑第1部全9巻。第2部連載中。
息を呑むほどのお耽美なイラストと、残酷さがミックスした歴史漫画。実在した人物たちがみな美しいです。
フランス革命へ近づくにつれて、ベルサイユのばらを彷彿とさせる設定と、宝塚歌劇のような演出を楽しめます。歴史好きはもちろん、そうでなくてもドラマチックな展開があるので、おすすめします。
まず、参考文献に上がっている、死刑執行人サンソン――国王ルイ十六世の首を刎ねた男 (集英社新書)を読めば、華麗な演出がシーンが創作だとわかって、さらに美味しいです。


ダンス・マカブル 2 ~西洋暗黒小史~ (コミックフラッパー)
↑「暗殺の天使と首切りの紳士」前後編の漫画でサンソンが登場します。こちらのシャルル=アンリは史実にそったイラストとなっています。恐怖政治時代に処刑された殺人犯、シャルロット・コルデーのお話。


1.サンソン家と死刑執行人

2.シャルル=アンリの苦悩とギロチンの誕生

3.フランス革命と国王の処刑