図説 プロイセンの歴史―伝説からの解放


図説 プロイセンの歴史―伝説からの解放

購入迷ったけど、思い切って買ってよかった書籍。フランスやイギリス、オーストリアに関する歴史書は数あれど、プロイセンを扱ったものは少ないです。ほとんどないと言っていいぐらい。歴史書としてもですが、読み物としても楽しめます。興味あれば、おすすめ。(ただページ数のわりには高額なので、気軽に購入できないのが難点ですが)

伝統的な部族に根ざした国家ではない、理性と合理性の国家の興亡記。1701年に王号を得て、一王国として成立する前の歴史から始まります。
面白いのは「プロイセン」という部族はそもそも、べつに存在していたということ。王家であるホーエンツォレルン家が統治する前、ドイツ騎士修道会が布教のために原住民であるプロイセン族を大虐殺して、ほぼ全滅してしまいました。その土地に入植して修道会国家を築きます。その後、たまたま修道会総長に就いたのが、ホーエンツォレルン家の傍流であるアルブレヒト・フォン・ブランデンブルク=アンスバッハ。彼は宗教改革に乗じて修道会国家を解散し、プロイセン公国の公主になります。
その後、相続者が途絶え、ブランデンブルク辺境伯であるホーエンツォレン家が統治するようになって、プロイセンの下地が出来上がるのです。

ただ飛び地の公国であることがデメリットとなって、領地から領地へ渡るのに他国を経由する必要が。統治しづらく、その周囲の土地を征服する必要がありました。国家の課題として、果敢に挑んだのが、大選帝候として知られるフリードリヒ・ヴィルヘルム。外交や戦争に明け暮れた人生。ただ成果はいまひとつだったようです。

やがてその息子であるフリードリヒが初代プロイセン王になるのですが、父とちがって戦争は一切していません。他国へ根回しをしてついに王号を得るのですが、方法が地味なためか、浪費家というイメージも加わって歴史家からは、不遇な扱いを受けているとか。
ただ、当時、「王号」は国家を形作る必要不可欠なもので、それを見事手に入れた初代王はすばらしい、と本書では褒めちぎってるのが面白い。

その次の王であるフリードリヒ・ヴィルヘルム一世についてもかなり褒めていて、粗暴で乱暴な部分はともかく、内政王としての実績を評価しています。彼がいなければ、プロイセン王国は発展しなかっただろうというほどに。必ず話題になる巨人兵に関しても、戦術的観点から必要不可欠だったのだろう、とまで。
が、巨人兵の肖像画を部屋にかけて、眺めていたという逸話(?)もべつの書物であるぐらいだから、それは褒め過ぎかと。どう考えてもコレクター魂で集めていたとしか思えないという(笑 実際、息子である大王は「不要」とすぐに解散させたというしね。

そして三代目がかのフリードリヒ大王になるわけですが、やはりシュレジエンの奪略の動機についても触れられています。はっきりした答えはなく、一国の王として、プロイセン・プログラムに従ったまでではないかとありました。そもそも大王の気質は優しく繊細だったのですが、将来のプロイセン王として教育をされるうちに、ひねくれた自虐的冷笑家になったようです。本書ではあまり書かれてませんが、べつの書物では親子の確執に触れられており、ひねくれるのも無理ないよな、とも思いましたが。
要するに、投げやり。破れかぶれの出たとこ勝負!!!
その後の七年戦争でからくも難を逃れたからよかったものの、捨て身の戦争に国民はえらく迷惑したはず。おまけに戦争が長引いて、重税にあえいだとか。消費税って当時からすでにあったのも驚き。国家が貧窮したら、簡単に税率を上げればいいのだから、搾取しやすいといったらそれまでですが……。
でも憎めず、愛すべき王さまでもあるのが彼の魅力なのでしょう。気むずかしい冷笑家といっても、心底では優しかったようですし。その後の啓蒙王政で、国民から「老フリッツ」と親しまれるようになります。

プロイセンは国として新しく、しかも部族や地域に根ざした土地でもないため、まず国の基幹をべつの概念に置き換える必要がありました。それが国家への義務。あるものは勤労(税金)で、あるものは頭脳で、あるものは血(戦争)で。それさえきちんと果たしていれば、あとは生活様式も宗教も国は関与しませんでした。移民も多く流入してきて、とくにフランスを追われたユグノー教徒たちの職人芸が国を発展させます。
そしてとくに重要だったのが、軍国としてのプロイセン。小国が大国と肩を並べる――ほどまでいかなくても、蹂躙されず独立した強い国であるためには、なにはともあれ強い軍隊が必要不可欠。だからフリードリヒ大王やその父も軍隊には、国家予算の大半をつぎ込んでいます。
あと、オーストリア等、他国と異なるのは、王自らが軍の司令官を兼ねる点。政治に関しても、王が最終的に判断を下します。絶対王政の究極。
ただ何もかも王が決めるのには限界があるため、官僚制度も発展していくことに。新しい国であるため、ユンカーと呼ばれる田舎貴族がメインで諸外国のような大貴族はいませんでした。だから官僚も権限が他国ほどなくて、国家に忠実に仕えることが可能でした。軍隊の将官たちも同様。

やがてナポレオンが登場して、プロイセンはまたも破滅の危機に晒されるも、運良く持ちこたえ、ついにドイツ帝国皇帝も王が兼ねるほどに成長するも、それがあだとなって崩壊していきます。
そもそも部族や土地に根ざした王国でなかったため、一度、べつの国家概念に摩り替わってしまうと、それを失ったとき、もはやプロイセンという国は名前だけのものに。第一次世界大戦の敗戦で、ついに王号を廃されると、プロイセン王国は消滅してしまいます。
あまりにも短くあっけない王国の最後が、まるでひとりの人間ドラマを見ているようで、感慨深いものがありました。うーん、江戸時代ぐらいの長さしかなかったんだよね、プロイセン王国って。ほんとうに短命だったんだな。
日本に住んでいたら国家が消滅したり、王が変わったりするという実感もだけど、歴史もないので、なかなか興味深く面白かったです。