戦闘技術の歴史3 近世編


戦闘技術の歴史3 近世編

超マニアックだから難解かもしれないな、という予想が外れたのがとっても嬉しい専門書! 歴史書や小説によくある『15○○年、××の戦いにて、△△将軍が率いるA国が勝利、○万○千人が戦死した』ですまされがちな一文の内容を描写しています。
そう、タイトルの通り、近世の戦争についての解説がいっぱい。そして一番よかったのが、図版が多かったこと。カラー頁や、当時の戦争を描いた油彩画等が見開きで紹介されています。
マスケット銃ひとつをとっても、火縄方式から燧方式への変遷が細かく書かれていて、きちんと発火点の図も紹介。武器をどういった戦術でどんなときに展開するのかを、実際にあった戦争の解説にそっての説明もわかりやすい。丁寧なことに、戦争の一つ一つには、文章での詳細の戦術と見開き図に簡単な解説がついています。三度も読めば、専門外の私でもすんなり理解できました。

そして最高指揮官である将軍たちのかっこよさ!
とくに本書でよく取り上げられているのは、スウェーデン王グスタヴ・アドルフ、オランダ貴族マウリッツ、プロイセンのフリードリヒ大王です。あとオイゲン公子にマールバラ公も。彼らは攻囲戦と海戦以外の章にほぼ登場。それだけ当時の英雄的将軍ともいえます。

マウリッツは軍事制度の改革の功績が大きく、実際に指揮をとった戦争は二回だけ。あとは攻城戦が得意でした。英雄というより軍師のイメージ。16世紀までは軍隊といっても規律はないに等しく、金で雇った傭兵隊がそれぞれ敵に突進するというスタイル。そのまえの中世は騎士が一対一で戦うのが普通でした。
マウリッツがおこなった改革とは、寄せ集めだった兵士たちに軍事教練を施し、規律を守らせ、指揮官の命令通りに行進、攻撃、退却するというもの。現在の感覚では当然のことだけども、当時としては非常に画期的。ぎゃくに考えれば、それまでてんでばらばら好き勝手に戦っていたという意味にもなります。
マウリッツの軍制改革がやがて近世の規律のとれた集団で戦う戦争へと発展していくのです。

グスタフ・アドルフは、王自ら軍隊を率いて戦った30年戦争の英雄。それまで騎兵が中心だった戦争を、火力、すなわち銃での攻撃で大勝利を収めています。それが転換期となり、他国の軍隊もマスケット銃でまず攻撃したあと、騎馬や槍兵で敵に突っ込む方式へ。
あとマウリッツの軍制改革を引き継ぎ、自国の軍隊を強くしたことでも知られています。まさしく軍人王。だが哀しいかな、その勇猛果敢さが仇となって、リュッツェンの戦いで戦死。相手がかの悪名高い傭兵隊長、ヴァレンシュタインだったのもあり、非常に過酷な戦いでした。王は戦死したけど、それがかえって軍隊の士気を大いに高め、からくも勝利しています。
当時の戦争は略奪の意味もあったため、王といえども死んだあとは敵国の兵士に身ぐるみ剥がされてしまうのが、えげつないというか。塹壕のなかで半裸上体で他の死体といっしょに埋もれていたというエピソードが、印象的でした。ほかの歴史書はそこまで書いてなかったものね(汗 だから本書は貴重でもあるのだけども。

フリードリヒ大王のかっこ良さを知りたかったら、本書がおすすめです。ほかの書物だと戦争以外の部分を書かれていることが多くて、肝心の戦術については、はじめに紹介した一行形式だから。
有名なロイテンの戦いとロスバッハの戦いの戦術はもちろん、大王がプロイセン軍に施した改革も紹介しています。とくに大王が力を入れたのが軽騎兵で、防御が弱いぶん、身軽さと素早さを活用。当時、プロイセンの軽騎兵は勇猛果敢さで知られ、将校たちの憧れだったとか。だからでしょうか、制服のデザインにも力を入れており、個性的でかっこいいその雄姿をイラストで見ることができます。うん、たしかに素敵だ。制服に目ををつけるとは、ミリタリオタのハートを刺激するという、心憎い大王(笑
そもそも軽騎兵を重用するようになった理由は、大王自身がハンガリーの軽騎兵に捕らえられそうになったのがきっかけ。その機動力に目をつけ、自軍に取り入れました。戦いはもちろん、偵察も彼らの大きな役割でした。
あと、七年戦争が始まったころ、四面楚歌に陥ったフリードリヒ大王、なんと賄賂をポンパドゥール夫人に贈っていたことが判明! 女性というだけでけなしておきながら、こっそりあとで賄賂とは。それだけ動揺していたんでしょうね。もちろん、夫人はまったく心を動かしませんでした。かっこよいのに、その記述だけ間抜けで非常におかしかったです。おちゃめすぎる……(爆笑 いったい何を贈ったんだろう?

ほかにもサーベルや馬の鞍、攻城戦や大砲、戦艦といった当時の戦術アイテムがこれでもか、とたくさん紹介されています。
私は18世紀~19世紀に興味があるので、古代編と中世編は未読ですが、もしそれぞれの時代がお好きだったらおすすめします。