補給戦―何が勝敗を決定するのか


 補給戦―何が勝敗を決定するのか (中公文庫BIBLIO)

 ヨーロッパ史における戦争 (中公文庫)をまず読了したあとに読むのをおすすめします。流れを知らないと、理解しづらいでしょうから。
本書は、戦争の花ともいえる戦略や戦術を支える土台でもある、兵站や補給の歴史です。ざっくりと近世から第二次世界大戦までの補給の歴史が書かれています。前半ページ、第一次世界大戦までの流れは難解ながらも興味深く読めましたが、ヒトラー以降になると戦略そのものが複雑になっているために理解しづらい。そこがちょっと残念でした。鉄道だけでなくトラック、船、飛行機まで登場したのだから必然ともいえるけど。
軍事ものに詳しければ面白いと思いますし、貴重な歴史系専門書です。補給について詳しく書かれた書物、戦史ものではほとんどなかったし、触れられていても少しですから。

傭兵が活躍した16世紀から、なんと20世紀初頭の第一次世界大戦までは、現地調達――いわゆる略奪が補給の基本でした。なぜなら、大量の食料を運ぶような運搬方法がまだ馬車か、船ぐらいしかなかったからです。そうなるとどうしても戦争そのものが、流動的になりました。一箇所にとどまったら、食料が調達できませんからね。
調達は相手国の領地にある町や村の食料を供出させることです。一文で書けばそれだけのことですが、住人たちにしてみればたまったものではありません。蓄えている小麦でパンを大量に焼いて、兵士たちの食料をまかない、宿も提供しました。逆らったら命がないのでしょうから、仕方ないです。
それも限界なときがあり、軍隊のあとをたくさんの商人や娼婦がついていくようになりました。彼らが武器や食料をあらかじめ大量に調達しておき、現地で兵士たちにそれを売るのです。行軍のさいに通る町に滞在する商人もいました。

その後、宗教戦争でヨーロッパ(主にドイツ)が荒廃してしまい、その教訓として兵站が作られました。戦争で移動する中途に武器、飼葉の食料庫を作っておき、補給をするのです。しかし、それも成功したとはいえず、結局、メインは現地調達という名の奪略。倉庫作ってもそこへ至るまでの運搬が厳しいのと、自国軍がそこを必ず通るとは限らない。途中、進路を変えられないから不便なのもあります。当時の進軍は戦略ではなく、土地の豊かさや季節を考慮しながら道程を決めて行きました。荒野だったら、現地調達できないからです。

その後、ナポレオンの登場で、兵站がなくなりました。そんなものに頼っていると軍隊の動きが鈍るからです。だからひたすら現地調達。軍隊の機動力がぐんと上がったのもあり、ナポレオンはついに天下を取りました。しかし、ロシア遠征は大失敗。補給は考えられて実行されたにもかかわらず、ロシアの道の状態がとても泥濘み、馬車が使えなかったためです。それでも冬が来るまでは、現地調達ができたから順調でした。

やがて19世紀に鉄道が登場すると、補給の方法もがらりと変わります。画期的な運搬手段として、鉄道が大活躍する――はずでした。実際には困難の連続で使い物にならず、荷降ろしする駅から前線までの運搬が滞ってしまいました。結局、馬車を使うことになるのですから、運搬量は知れてます。
あと鉄道は敷設しても、敵に破壊されやすいのも弱点でした。ハイジャックならぬ、トレインジャックされてしまうことも。そしてまだ鉄道の黎明期なのもあって、必要以上に貨車を走らせて渋滞してしまうのもしょっちゅうでした。
モルトケが鉄道を使った戦略で、フランスに大勝利を治めた史実は有名ですが、実際には鉄道はあまり有効でなかったとか。モルトケ自身がのちに勝利の宣伝をしたとき、いろいろ脚色したからあやまったエピソードとして流布していったのです。

20世紀に入り、第一次世界大戦になっても、まだ馬車が活躍していました。鉄道も以前より有効だったものの、やはり弱点は同じで補給がうまくいかず、ドイツ軍は負けてしまいました。

ヒトラーが登場する第二次世界大戦から、自動車(トラック)が加わり、彼は鉄道の代わりとして利用します。しかし当時のドイツは資源が乏しく、タイヤの原料が手に入りにくいため、粗悪な部品でできたトラックばかりでした。すぐ故障するし、かといって生産も限られるから代わりはないしで、補給がうまくいかなかったそうです。それと敗戦は直接関係ないにしても、要因のひとつでした。

いっぽうのロンメル将軍はアフリカへ進軍したものの、荷が届く港から前線までの距離が長過ぎ、補給がうまくいきませんでした。あと酷暑で食料がすぐに腐り、トラックも故障しやすかったのもあります。名将として知られるロンメルでさえ、補給に関してはおざなりでした。(このあたりの時代になると難解なため、曖昧にしか理解してませんが……汗)

もう少し読みやすかったらよかったですが、内容的には満足でした。戦争の裏方の仕事で目立たない兵站や補給ですが、それがうまくいくかどうかによって、勝敗に大きく影響するという素晴らしい視点の書物。