伝説となった日本兵捕虜 ソ連四大劇場を建てた男たち (角川新書)
(↑ 日本兵捕虜はシルクロードにオペラハウスを建てたの新版です。)
終戦直後、捕虜になった日本兵たちがシベリア収容所送りになる史実は誰もが知るところ。極寒のなかで大勢の日本兵たちが死んでしまう収容所ばかりかと思っていたら、意外にもそうでない収容所があったというのがまず驚きでした。
彼らは工兵として従軍していたため、手先の器用さと図面が描けることを生かし、壮大で華麗なオペラ劇場を建設します。その作りは繊細にして頑丈で、大地震があったときまったく崩れなかったという、逸話があるほど。ウズベキスタンの人々は今でも、その劇場を誇りに思い、建設に従事した日本兵たちを尊敬しているといいます。
しかし当時のソ連だけあり、民主化という名の思想改造があった話もありました。そのなかで共産思想に染まった日本兵の一部が、仲間たちを裏切って告発するという状況になったのは、近くにあるほかの収容所。さいわいにも、劇場建設をしていた収容所には、温和ながらとても冷静かつ公平で肝が座ったリーダーがいたため、思想改造のごたごたもなかったといいます。
そのかわり、ひもじくてつらい生活に楽しみを見出すために、将棋や麻雀といった娯楽アイテムを手作りしたり、楽器まで作ってついには地元やソ連兵たちと演劇の祭りを開いたそうです。
そのときの友情が日本に帰国したあとも続き、ラーゲリ会――いわゆる同窓会を年に一度しました。集って、当時の思い出を語り合ったとか。
しかしのどかに見える収容所生活ですが、あくまでオペラ劇場を建設したその収容所だけが特別であり、シベリア等の収容所の捕虜たちは、帰国しても同窓会などしなかったといいます。それだけ過酷だったのでしょう。
前半は当時の満州について書かれ、簡単に歴史を知ることができます。だから前知識がなくても読みやすい内容です。
ただ、エピソードがもう少しあってもよかったな、というのもありました。あっさりとどんどん進んでいくので、少々物足りなかった。読みやすくするためにあえてそうしているのかもしれませんが。
だから専門書というより、一冊の読み物として読めばいいと思います。
過酷な捕虜生活を知りたくなったら、下記の漫画がとてもわかりやすいです。
[まとめ買い] 凍りの掌 シベリア抑留記(BE・LOVEコミックス)