ギャング・オブ・ニューヨーク


ギャング・オブ・ニューヨーク (ハヤカワ文庫NF)
↑2019/7/28現在、絶版のようです。興味があれば、ぜひKindle化リクエストをクリックしてください。

映画の原作とカバーにあったから小説と思い込んで読み始めたら、意外や意外。一九世紀のニューヨークの暗黒街の詳細なルポタージュ風ノンフィクションでした。

DVDの解説をアマゾンで見たら、第五章の『ビル・ザ・ブッチャーの殺害』に登場する、ジョン・モリシーのエピソードを映画化したみたいです。感情移入しやすいように大幅に脚色しているのでしょう。名前がちがうし恋愛っぽい描写はなかった。

ちなみにモリシーは復讐などではなく、単に荒くれ男たちのケンカが発端。ボクサーとして名が知られていたため、同業者と腕っ節を争ったという単純な動機。当時のギャングそのもの。面白いのは、のちのように警察が取り締まるのではなく、賄賂等で持ちつ持たれつつの関係だものだから、人生の後半には賭博場のオーナーになって大金持ちになり、ついには政治家になった点。投票場ですら、ギャングが支配しているものだから、投票に行くのも命がけで、不正なんて当たり前だったのでしょう。

ページ数も多くてあれやこれやと固有名詞な名前があるものだから、読み進めるのに時間がかかりました。それだけ中味も濃いので、一九世紀の暗黒街を詳しく知りたい場合にはとってもおすすめです。
移民がたくさん増えて貧民も増えてきたことが、ギャングが誕生した原因。おもにアイルランド系が多くて、初めのうちは同じ荒くれが多い黒人系とも親しかったんですが、だんだんと白人社会になってきて、のし上がろうとしているうちに対立するように。
それで差別もひどかったようで、意味もなく命を奪って木に吊るし、見せしめにしている描写もありました。徴兵騒動(南北戦争で兵士が足りないから、徴兵へ。でもお金をたくさん払えば免除されるため、貧しい人々が大暴動を起こした事件)では、それが顕著になっています。当時のロンドンとは比べ物ならないぐらい、貧民街は暴力が横行していました。まさしく暗黒街。強い物がすべて。

やがてギャングは組織化されていくようになると、マフィアとなって、カジノやダンスホール、キャバレーなどを経営するように。もちろん麻薬もですが、もっとも暗躍したのがチャイナ系。連想されるように、アヘンをどんどん大量に輸入しては阿片窟をつくって、たちまち一九世紀末には、暗黒街を支配するようになりました。
すごいのは、わずか7年で、たった12人の移民が、どんどん同族を呼び寄せてたちまちニューヨークにチャイナタウンを作ったこと。その数1,5000人!

あと貧しいからマフィアになるのが大半だけど、なかには実家が裕福なのにその道へ転落した者もけっこういます。というより、大ボスになる人物ほど、生まれながらの素質があるのか、堅気の社会じゃ物足りないんでしょうね。なかには、哲学や神学をまなんでいるインテリ系もいました。もちろん、賢いぶん、とっても厄介。

あと武器に拳銃はもちろんだけど、斧が大活躍しているのが一九世紀らしいです。これで敵の頭をかち割るのだ(残酷)。メリケンサックやバットも人気がありました。一番銃を使ったのがチャイナ系。しかしジンクスなのか両目をつむって撃ちまくるのが主流になっていたとか。もちろん、命中率は低いです。今はさすがにないでしょうけど(笑

最終章には消え行くギャングたち、とあるんですが、発行されたのは1928年。このあと大ボス、アル・カポネも出てくるのだから、消えるどころじゃないですよね……。


レオナルド・ディカプリオが主演の映画版

ギャング・オブ・ニューヨーク [DVD]