崇高なる者―19世紀パリ民衆生活誌 (岩波文庫)
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タイトルからしてお堅い労働者論かと思ったら、まったくちがってました。
かつて工場で労働者として働いていた著者が、赤裸々にその実態を綴ってます。第二部もあるそうですが、当時の労働者論はあまり現代にそぐわないためか、掲載されていませんでした。
当時のパリの労働者たちを下記のように分類。
・真の労働者(真面目かつ敬虔で家庭を愛するよき夫。善良で教養もある)
・労働者(教養はないが、仕事をさぼらない真面目さがある)
・混成の労働者(酒好きで真面目さはないが、仕事は最低限こなす)
・単純なシュプリズム(酒がないと仕事ができないアル中。浪費家で貧乏)
・前科のある、または没落したシュプリズム(教養があるにもかかわらず、没落したため労働者に。売春婦のヒモや犯罪者が多い)
・真のシュプリズム(ずるがしこいアル中。経営者のやっかいな敵)
・神の子(一見すると知的で敬虔な労働者。中味は権利ばかり主張する口先だけの連中)
・シュプリズムの中のシュプリズム(神の子をさらに理論的にした実行力のある事務員。その実態は社会を混乱させる破壊者。社会主義に傾倒している)
……8つの労働者のタイプについて解説されているのですが、どれも創作みたいに破天荒な内容。まるで古典に登場する、どうしようもない酒飲み父さんをそのまま具現化しています。
そう、これはフィクションではなく、ノンフィクションというのがすごい(笑!
発刊された当時、とても評判になり、1870~87年のあいだに三度も改訂されています。現代ではぴんとこないけど、当時は書物はとても高価な娯楽でもあったので、かなり売れていたよう。
それだけ18世紀なかばの労働者の実態を赤裸々にレポートしたことで知られています。
それにしても酒飲みは、いつの時代も社会のお荷物なんでしょうねえ。当時は居酒屋ぐらいしか娯楽がなかったし、今とは想像がつかないぐらい深刻だったのでしょう。どう読んでも「これはアルコール中毒?」な描写が多々ありましたから。
あと、教養があるのに没落した労働者も、まるでドラマのようなジゴロ。てっきりお話を面白くするために誇張したのかと思っていたけど、文学作品のなかの間男そのまんまなのがおかしかったです。
ほかにも俗語やあだ名、居酒屋の歌といった貧しい労働者たちの生活が、生き生きと書かれていました。さすがフランスだけあってエスプリ(皮肉)がきいています。