ハプスブルク家


ハプスブルク家 (講談社現代新書)

以前、ハプスブルク家の通史を扱ったべつの書籍を読んだことがあるんですが、あまりの複雑さに理解できず、がっかりしたことがあります。ハプスブルク家は近親婚を繰り返して複雑なんだな、ぐらいに思ったまま興味もさほど持てなかったのですが。

……ああ、これをさきに読んでおけばよかったっ!!!!!!

というぐらい、わかりやすくて読みやすかったです。文章が平易なのと、無味乾燥な学術書にありがちな記述が抑えめだからでしょう。あと、ハプスブルク家に関する通史のエピソード以外は、ほとんどいっていいぐらい書かれていません。新書ということもあって頁数も限られているためでしょうが、かえってそれもよかった。寄り道がいっさいないお陰で、すんなり理解できましたもの。
(以前読んだ『ハプスブルク一千年』は余計な話題が多すぎてわかりにくかったのだと、今、納得。もし迷われたら、購入しないほうが賢明です)

マクシミリアン一世って立派な君主だったのか。騎士としても統治者としても文化人としても、あと外見も優れてたとは。
あと、カール五世って立派な皇帝だったのも知らなかったという。近親婚のイメージが強くて、為政者としての素晴らしさはよく知らなかったんですよね。なぜオーストリアとスペインに分裂したのかも、本書を読めばすんなりわかります。
そしてマリア・テレジアはともかく、そのひ孫のフランツ・ヨーゼフの君主としての強さと孤独も書かれていました。実質、最後の皇帝。
第一次世界大戦以降は民族独立運動が起こって、帝国は瓦解して共和国になります。あれだけ広大な領地を誇っていたハプスブルク家の栄光と落日が物悲しさを誘うラストでした。

君主が統治して政治をすると、どうしても王によって国の安定にばらつきがあるのは良いのか悪いのか。聡明な君主だったら、国は無駄な戦争もなく繁栄するのですが、そうじゃなかったら最悪、領地をたくさん失うことに。もちろん戦争で。戦争を回避するための外交術や、たとえ開戦したとしても損害を少なくするための戦略に長けてないと、周辺諸国にたちまち蹂躙されてしまうという。
オーストリア自体が周囲が他国に囲まれていることもあり、常に領土が変化していくのもよくわかります。


ハプスブルグ家の宮殿
↑その以前、の書籍。絶版なので、タイトルのみ。

近世以降のハプスブルク皇帝の簡単な歴史と、それにまつわる宮殿について時系列に書かれた内容。
歴史的部分はとてもあっさりしてますが、シェーンブルンなどの宮殿に関する話がメインになっているので、当時の皇帝たちの住まいについて知ることができます。

内向的なレオポルド一世は庭に思い入れがあったり、マリア・テレジアは家族と過ごす空間を大切にしたり、また19世紀半ばから第一次世界大戦まで帝位にについたフランツ・ヨーゼフは時代ごとに近代的な設備を足していったり……と、さまざまなエピソードがありました。
だんだんと帝国としての力を落としていくハプスブルク家ですが、それとは対照的に宮殿は大きく豪勢になっていきます。人々に帝国の威信を示すために、衰えつつある国力から目を背けさせるため。とくにマリア・テレジアの統治ではそれが顕著です。

シェーンブルンの宮殿には神秘的な庭や部屋もあって、魔術を連想させるものも。たくさんの剥製を飾ったり、一度入ったら抜け出せないような迷路の庭、世界中の植物を集めた庭園など。
表舞台で皇帝として統治する傍ら、裏舞台では神秘的な空間で帝国を支えていたのだろう……と著者は書いているのだけども、「そうかな?ただの趣味的要素のような」と私は感じました。神秘的といっても、似たような設備はほかの宮殿にもありそうだし。メイズや薬草園だって、領主の館には付き物。
もう少し宮殿の奥深い部屋や設備のエピソードがあればよかったかな……。