戦争論 上下巻


戦争論〈上〉 (中公文庫)

Amazonレビューで絶賛されていますが、とても難解(というより要点が絞られていないから回りくどくて理解しづらい)ので注意しましょう。勢い余って下巻もいっしょに購入しないように。私はしてしまってちょっと後悔しかけたけど、ランチタイムを使い半年近くかけてなんとか読破しました(苦笑)
19世紀初頭における戦争ひいては軍事におけるあり方を、これでもかと著者の経験と過去の軍人たちの著書を研究して、あらゆる方面から展開しています。おもに前半は戦争とは何かを論ずるもので、「戦争とは他の手段をもってする政治の継続にほかならない」が有名。根本にそれが常にあって、戦略へと進み、戦術、戦力、攻撃、防御、作戦計画と続きます。

とくに多く頁を割いているのが防御。防御といっても相手が攻め入るから防御になるのであって、攻撃することには変わりありません。しかし長い時間をかけてはるばるやってきた敵よりも、自国で戦う防御のほうが有利なのだから、自国自衛の大切さを説いてもいます。防御をしっかりしておかないと、国がなくなってしまいますからね。
だから18世紀まではあまり戦争そのものが行われず、政治上の延長で利用されています。軍事力が大きいほど、外交での発言力(あるいは脅し)も増します。やがて好戦的なナポレオンの登場でそれがくずれ、戦争の質も変わっていきます。兵站から補給が、現地調達――いわゆる略奪に変化していったのも一例。本書が執筆されたのもそのころです。
当り前といえばそうなんだけども、これ読むといかに現在の日本が異常なのかも理解できます。軍事力ないと隣国からいつ攻め入られても不思議じゃないから、いくら戦争反対といっても現実では必要悪なのでしょう。

ただ実用的かと問われればそうでもなく、著者クラウゼヴィッツの戦争論が滔々とどこまでも語られてるのみ。なので具体的な戦術や防御の方法を知りたい場合はあまりおすすめできません。たくさんあることにはあるけど、とにかくまとまっておらず、内容が頭に入ってこないんですよね……それでも、読破したら「これはすごい書物だ」と感動もしました。読み通した達成感が半端ない(笑
今まで読破したなかで、一番難解でした。(文章そのものは平易ですが、要点がぼやけていて一文が長いのもあり、ポイントがつかみづらいのです)

戦争論のなかでとくに参考にされているのが、フリードリッヒ大王とナポレオン。英雄扱いされている両者ですが、共通するのはリーダーとしての素質。はったりはもちろん、豪胆かつ冷静な戦術家として重要な精神力を兼ね備えた人物。
当時の戦争においてはとくに総司令官が重要で、彼の能力や精神力にかなり左右されます。それがやがて国民戦争へと変わっていき、戦争の規模が大きくなるころにクラウゼヴィッツが戦争論を書いたらかなり異なった内容になっていたかもしれません。

それにしてもクラウゼヴィッツ、当時でこれだけの情報量を持っていて理論を展開するなんて、かなりの頭脳の持ち主。12歳で士官候補生になっただけあるな、と思わせるほど軍事に長けています。50代で亡くなったのがもったいないほど……。


戦争論 ─まんがで読破─
↑ポイントのみを押さえた漫画版がありました。原作を読む前の入門編として。