文藝春秋SPECIAL 世界史シリーズ

バックナンバーの雑誌のため、電子書籍版のみです。
3冊とも初心者向けとありますが、基本的な知識がないと少しむずかしいかもしれません。
それぞれの時代と国に精通した著者たちが、コラム形式で世界史についてコンパクトに書いています。どれも一話は短いので、ちょっとした隙間時間に読めて、なおかつ世界史の知識が高まるのがおすすめポイント。
そのなかで興味を持った歴史があれば、巻末に世界史教養におすすめの書籍紹介が参考になります。
たくさんある講義のなかから、印象的だったものをいくつか紹介。


文藝春秋SPECIAL 2015年夏号 [雑誌]大世界史講義

・ルネサンスは魔術の最盛期
自然科学と近代の始まりとされているルネサンスですが、イスラム文化に残る古代を発見したことで”迷信”が花開いた文化でした。占星術等が発展したことで天体学が始まり、オカルトな錬金術の理論がのちの化学や物理学へと繋がったのです。ルネサンスがヨーロッパへ広まったのは、航海技術の革命と活版印刷のおかげでした。それまで書籍などの情報はごく一部の限られた者しか目にできなかったのです。

・国際比較江戸期日本が超平等社会だった理由
鎖国前は海外への銀輸出によって、エリート層と庶民の格差が大きかった日本ですが、江戸時代の鎖国政策で平等な社会がもたらされます。経済が国内だけで回ったために、階層ごとの利益率が低くく、それが格差を小さくしました。勤勉に働けば、小作人でも土地を買って自営農家になることができたのです。イギリス等のヨーロッパでは、農業の収益が地主や貴族に集約され、土地を持たない農民は貧しいままでした。

・なぜイギリスで産業革命が始まったか
名誉革命によって議会と司法の制度が確立したことで、所有権の安全性がもたらされたのが始まり、と言われる産業革命ですが、別の説が登場します。それはイングランド銀行の創設。18世紀に中央銀行となり、信用貨幣による支払い決済システムの構築は、当時イギリス以外の国にはありませんでした。銀行券(紙幣)で工場や軍事費の調達が即座にできたことで、戦争で使う造船や製鉄業で石炭への転換を促し、産業が飛躍的に発展しました。

・カタヤマ教授、世界史入試問題を解く
いわゆる難関大学の歴史問題の問と解答例。どれも高校生には難問で、入試のレベルの高さを垣間見ました……。予備校に通わないと合格するのは大変そうですね。1000文字位内でまとめよ等、発想と文章力も問われます。
(余談ですけど、私は大学受験していません。だから塾にも通ってませんでした。家が貧乏だったのもありますが、当時は女性が四大に進学すると就職ができない時代でした。いわゆるOL=腰掛けだから結婚退職が当たり前。あと、親が男尊女卑だったのでチャンスすらなかったです……(/_;)。今は女性も総合職として企業の就職が当たり前だから、時代は変わったなあ、と思います。奨学金(学生ローン)を使って四大進学する女子学生なんてほとんどいなかった。これも歴史の流れですね。ここでこうして書いたのは、努力が足りないから進学や就職(あと結婚もね)ができないという、現代の風潮に違和感があるためで、ネット時代以前は個人が情報を得ることすら難しかったです。)


文藝春秋SPECIAL 2017年春号[雑誌]入門新世界史

この号はトランプ大統領当選のインパクトが大きかったみたいで、タイトルにやたらとトランプがついています(笑)。そのためか、現代史(時事)が多め。その前の号はイスラームが多く、現代も歴史になっていくのを実感します。

・“金貸し”ニュートン 二つの錬金術
ニュートンは母親が吝嗇家だったことで、自身もかなりのケチでした。大学へは給付生として入り、学生たちへ利子をつけてお金を貸します。商才があったようで、堅実な利益を出します。その後、錬金術にどっぷりはまるのですが、万有引力を発見したイメージが損なわれるために、歴史では気分転換として語られます。大学を卒業後、造幣局監事となったニュートンは持ち前の行動力で、贋金づくりのシンジケートを壊滅させます。造幣局長官、王立教会の会長として権力を振るうも、1720年の南海泡沫事件で、投資に失敗した……いや、切り抜けて利益を得た、と未だに説が分かれています。

・共和党VS.民主党 日本人が知らないアメリカ史
100%真実か定かではありませんが、シリーズの中で最もインパクトがあった講義。
リベラルを信条に掲げているアメリカの民主党ですが、第二次世界大戦直後ごろまでは、人種隔離政策を推進していたほどの保守政党でした。リンカーンが大統領だった当時、イギリスの知識層に支持されていた共和党は、奴隷解放を進めます。南北戦争に勝利後、共和党のリンカーン大統領は暗殺されてしまいますが……。
南部の貧困白人層が支持していた民主党ですが、第二次世界大戦後、その白人たちが裕福になったことで、彼らも共和党を支持するようになります。このままでは国民の支持を得られない、と危惧した民主党は信条を一転。リベラルへと舵を180度方向転換しました。そして民主党の過去は「かつてのアメリカ」と置き換えることで、有耶無耶にしてしまいました。アメリカ人自身ですら、その歴史を知っている人は少ないとか……。


文藝春秋SPECIAL 2017年秋号[雑誌]世界近現代史入門

・リネン、砂糖 ヨーロッパを勝者にした世界商品
近世のヨーロッパでは多くの商品が外国から輸入されてことで、世界経済と生活が大きく変わります。主な商品は亜麻、麻、リネン、砂糖、コーヒー、綿、穀物。例えば穀物は、それまでは近隣地方から買い付けしていた商品が、人口の増加で遠くバルト海から輸入されます。アムステルダムに集まった穀物は、ヨーロッパ中へと輸出されれます。そしてポーランドの亜麻と麻は造船のロープや帆となり、豊かになったヨーロッパはコーヒーに砂糖を入れて飲む文化が定着します。それがのちに産業革命へと発展します。

・アフリカ奴隷貿易と世界資本主義システム
上記のように、世界商品が多くヨーロッパにもたられたのは、黒人奴隷の働きがあってこそでした。奴隷貿易により、アフリカの文化は寸断されてしまい、発展から取り残されてしまいます。その影響は現在も続き、近代ヨーロッパの負の歴史ともいえます。

・もしも七年戦争でフランスが勝っていたら……
18世紀、フランスとイギリスはカナダで何度か戦争をしました。イギリスが勝利したのですが、もしそのときフランスが勝っていたら、革命は起こらず大仏帝国となり、公用語はフランス語となっていた……かも、というIFな内容が面白かったです。それだけ、植民地カナダを失ったのは、フランス王朝にとってかなりの痛手でした。

・「行政国家」がヒトラーを生んだ
第一次世界大戦で負けたドイツはヴァイマル(ワイマール)共和国となるのですが、男女普通選挙等、当時は憲法があまりにも民主的すぎたため、ハイパーインフレも重なりドイツは不安定になります。ヴァイマル民主主義の現状を憂いていいた1人に、憲法学者のシュミットがいました。議会制民主主義ではいつまでも議論が終わらず、政治が停滞します。そこでシュミットは憲法の第48条に目をつけます。選挙によって国民の信託を受けた大統領は、国家の危機の際には、法律を踏み越える措置を下すことができる――それはあくまでも”健全に”政治を進めるための超法規的措置でした。当初は社会福祉を行政が積極的に介入するために、第48条を何度か行使します。しかし、”民意で”首相に任命されたヒトラーがそれを独裁に悪用してしまったことで、第二次世界大戦へと進んでしまいました。議会制民主主義と独裁は正反対のようですが、常に表裏一体であることを忘れてはいけない、という教訓を感じます。